おさなごころの君に、

茜色の狂気に、ものがたりを綴じて

【草稿】「夜を縫いとめる」

君の孤独は季節を宿している

〇〇七 ときどき、とても哀しくなるんだ。 かつてどこかですれ違った隣人が儚くなったのかもしれない。 君の孤独は季節を宿しているから、ついつい求めてしてしまう。 僕は、君の一部を分けてもらわなきゃ生きていけないし。 ハハッ、だからこれは縋っている…

七色に発光する僕の体

〇〇六 そっとカーテンを引いたが、七色に発光する僕の体は 室内に鮮やかな乱反射をもたらし、 あっさり君にふり向かれてしまう。 おはよう、僕は堅い表情で全身を晒してみせるが、 スウプを温めていたらしい君は素知らぬ体で 味見皿を差し出した。 「昨晩の…

僕の体にも結晶体の成分が溶け込んでいた

〇〇五 目覚めると窓辺に不恰好な結晶体がいくつも並んでいた。 差し込む陽が七色にゆらぎながら僕らの寝床へ 透過している。 あ、と小さく叫んで自分の腕や放りだした足を見やると、 案の定、僕の体にも結晶体の成分が溶け込んでいた。 ああもう、また君の…

僕にはそこまで執着してくれないね

〇〇四 君は度々、僕に何も言わずふらり姿を消してしまう。 思い立ったが吉、ほかは頭になくなってしまうんだ。 君のそういうとこ嫌いじゃないけどさ、好きにしたらいい。 僕には待つことしかできないし。 まったく呆れるけどね。 夢中になれる対象があるっ…

状態のいい結晶体

〇〇三 「どこへ行く」 「夜露を集めてくる」 「まだ早いだろう、それに外はひどく寒いよ」 「だからいいんだよ、状態のいい結晶体を採取できる」 「戻れよ、僕が寒い」 言っても、君は聞かない。 もうすっかり身支度を整えて、タイを締めている。 手を伸ば…

君の燃えかすは雪原へばら撒いてやる

〇〇二 たとえば僕がしんだとして、 君はどれほど悲しんでくれるだろう。 僕は君がいなくなってしまったら、きっと泣くよ。 ひと夜ふた夜の話じゃない。 どうしてこの僕を一人にしたのか、 いつまでだってなじり倒す。 君の燃えかすは雪原へばら撒いてやる。…

君が夜を縫いとめていく

〇〇一 ひりつく背中に、ますます夜がこぼれ落ちてくるのだ。 薄笑いを浮かべた君が僕を見ている。きれいだね。 お願いだ、やさしい言葉なんてかけないでくれ。 僕は君の恍惚を垣間見られさえすればそれで。 背骨に沿って、脇腹からくびれを這って、 君が夜…