「ひそやかな相愛-01」楢﨑古都
「ひそやかな相愛-01」|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note https://t.co/cY8N61fo7p
— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月21日
傍らで、淳之介が寝そべっている。
銀色の細いフレーム。横顔に一筋の硬質をもたらし、手元を見据える眼差しに引き金をかけているもの。すべらかな肌をしている人だ。華奢な金属は、それゆえに寂と落ちついている。
わたしは彼のふところで、ふんと鼻を鳴らしてみせる。脇腹に頭をもたせかけ、両足を抱える。ソファーの沈みに身をまかせると、ぬくもりにまどろみが呼び起こされるようだ。
淳之介はページをめくる手をとめて、こちらを見やった。
「起きたのかい。」
ふちなしのレンズに守られた先にある瞳。わたしはそれを見つめ返し、まばたきでこたえる。すると、彼の手がわたしの頭をなでた。
それから、淳之介はわたしの首筋に左手を置いて、再び文脈に視線を落とす。短く切りそろえられた爪が並ぶ指先は、たまにあごの下もくすぐってくれる。
心地いいですね。
淳之介は片手で器用にページをめくる。かすかな紙の擦れる音と、空気をはらむ造作のくり返し。
日差しの低くなりはじめた季節は、レースのカーテンを不規則に揺らし、膨らました。
くしゅっ。
淳之介は驚いたように顔を上げ、わたしを見下ろして苦笑する。
「少し、寒かったね。」
淳之介が立ち上がるのについて、わたしもソファーを飛び降りる。
「あ。」
空を見上げて、淳之介は窓を閉めるどころか、ベランダへ出ていく。
「ほら。見てごらん、飛行船だ。」
ついてきたわたしをふり返って抱き上げると、薄い雲のたなびく空を指差した。
まあ。
楕円の風船が空をすべっていく。
「めずらしいな。見たことなかっただろう」
わたしは淳之介を見上げて、あれはなんですか? とたずねる。
「あんなのに乗って、空中散歩なんてできたら、きっと素敵だろうな」
風船に乗って、空を飛ぶの?
「なにか、イベントでもあったのかもしれないね。彼女にも見せてあげたかったな」
わたしはもう一度、くしゃみをした。
「ごめん、風邪でもひいたかい」
淳之介はまた笑って、窓を閉めると、レースのカーテンを引いた。
彼女。さなえさんのことを、彼はわたしの前では必ずそう呼ぶ。
淳之介は、女心をくすぐるのがとっても上手よね。
さなえさんと初めて会ったとき、彼女はわたしにそう言った。
ソファーに腰かけると、淳之介は文庫本にしおりをはさみ直し、自分の膝へ乗るようにわたしをうながす。あるかなきかの、ちびくさい真っ白なしっぽをぷんぷん振って、腹ばいに身をまかせる。