おさなごころの君に、

茜色の狂気に、ものがたりを綴じて

【草稿】「茜色の露草 瑠璃色のカテドラル」

木蓮は春のちょっと手前だから、少しさみしいね

「木蓮の花の純白ベルベットはウェディングドレスには向かないねー、せめて散るまではきれいでいたらいいのに、見てよ、まだ満開なのにもう茶色く荒んじゃって、灰かぶりのドレスだって、こんな中途半端な魔法の解け方はしないわよ」 定期健診に付き添った帰…

男という生き物はどこまでも愚かだ。

男という生き物はどこまでも愚かだ。愛したつもりで、簡単にその手のひらを翻す。わたしたちが、女という生き物が、いくらでも自分たちを抱きとめてくれると信じ込んでいる。頭をなで、ひざを貸し、愛しているとささやけば、安心しきって寝息を立てはじめる…

わたしたちは子どものかたちをしていたけれど、いつのまにか精神ばかりが膨れあがった頭でっかちな子どもの群れに育っていた。

中等科・高等科はそれぞれ三年の一貫教育で、男女別の寮生活に変わる。初等科のあいだ、子どもたちは男女の区別なく育てられるが、恭一のように飛び抜けて進級していく子どもたちは、特別進学科に割り振られ、初等科へ通う子どもたちと引き続き生活だけは共…

それならぼくは、番い目にでもなろうか。ぼくが箍にさえなってしまえば、きみのその不安はすべてこのぼくが受けとめてしまえる。

恭一はとても安易な理由で、茜ちゃんをひとり残して逝った。 ある時期、茜ちゃんはとても不安定だった。幼馴染ではあったけれど、恋人ではなかったとおもう。ただ、子どもの頃からずっと兄妹同然に育ってきたから、そんじょそこらのぽっと出カップルなんかと…

額にはりついた、遅れ毛の一本一本まで鮮明だ。

教室。始業前の、まだだれもいない教室。わたしは瑠璃子をさがしている。夢だとわかる。学年の違う彼女が、ここにいるはずがないのを知っているからだ。自分はいま、自分の夢を俯瞰している思考だ。 ぐるりと見渡し、まだ低いが強く差し込む陽を遮るために、…

コップの底を薄く濡らす程度の存在価値しか見出せない

茜ちゃんはいちいち律儀だ。 むかし好きだった男のことまで、いつまでも気にかけている。初恋とはそうも貴重なものだったかしらと考える。たとえば、ロングスカートの裾が歩くたび足にまとわりついてくる感じに似ている。使い古されてチープな匂いのする、未…

この子はばかだから、ばかでほんとうによかった

勝手に、神聖かつ厳粛な雰囲気を期待していた。物静かな夫婦や、白髪を品よくまとめた婦人、スコッチツイードのジャケットにループタイの老紳士、緊張した面持ちでひとりきり腰かけている小学校低学年らしき男児、そこへ「クリスマスおめでとう」と顔を覗き…