おさなごころの君に、

茜色の狂気に、ものがたりを綴じて

「ひそやかな相愛-03(終)」楢﨑古都

「どうぞ。」 どうせなら、一緒にミルクもねだっておくべきだったかしらん。「食べないの?」 食べさせて、くれないんですか? じっと淳之介顔を見つめ、小首を傾げる。「やっぱり拗ねてるな。いっそお前も一緒に、お婿さんでももらうかい」 なんてこと! そ…

「ひそやかな相愛-02」楢﨑古都

「今晩は彼女が来てくれるよ」 さなえさんは淳之介の婚約者だ。たまに、わたしたちの部屋へも遊びに来て、一緒に料理をしたり、映画を観たりして過ごす。 じゃあ今日は、さなえさんがいらっしゃるまで、お散歩もおあずけということですね。 わたしは膝の上で…

「ひそやかな相愛-01」楢﨑古都

「ひそやかな相愛-01」|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note https://t.co/cY8N61fo7p— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月21日 傍らで、淳之介が寝そべっている。 銀色の細いフレーム。横顔に一筋の硬質をもたらし、手元を見据える眼差しに引き金をか…

「琴子ちゃんの風景-07」楢﨑古都

琴子ちゃんの風景-07|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note浪人中、勉強の息抜きに書いていたおはなし。この頃は、江國さんやばななさんをお風呂でふやかしながら読むのが好きでした。https://t.co/6av43RCbUm— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月19日 …

「琴子ちゃんの風景-06」楢﨑古都

琴子ちゃんの風景-06|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note https://t.co/tMPa8HkFmN— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月18日 ママはわたしの頭をなでて、「ここからが、パパにはまだ秘密のはなし。」 潤んだ瞳で、けれどもやわらかな表情でママは言っ…

「琴子ちゃんの風景-05」楢﨑古都

琴子ちゃんの風景-05|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note https://t.co/i3WMOX9qng— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月17日 そういえば少し前に、ママが人差し指をくちびるの前にいかにも秘密めいた仕草で立てて、わたしに耳打ちをしてきた。 「パパ…

「琴子ちゃんの風景-04」楢﨑古都

琴子ちゃんの風景-04|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note https://t.co/CpG8fIFTWJ— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月17日 わたしはパパの左の脇腹にぺったりはりついて、家の中だろう外だろうと、ところかまわずそこらじゅうついて回る。ファザコン…

「琴子ちゃんの風景-03」楢﨑古都

琴子ちゃんの風景-03|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note https://t.co/ZEdQEuvxPu— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月15日 パパがおうちにいてくれる日は、とってもうれしい。 図書館のお休みは小学校と違って月曜日が多いから、基本的にわたしのお…

「琴子ちゃんの風景-02」楢﨑古都

琴子ちゃんの風景-02|楢﨑古都 #note https://t.co/BzdeZa337y— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月14日 パパはちょっと有名な東京の大学を出て、ついでに大学院へも行った。でもそれを一年ちょっとであっさりやめてしまって、図書館司書になった。 …

「琴子ちゃんの風景-01」楢﨑古都

琴子ちゃんの風景−01|楢﨑古都 #note https://t.co/Rj5bvRBk74— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月14日 わたしのパパには、左腕がない。 わたしとママのは、一応まだあるべき場所にくっついている。 あんまり、深く気にした琴はない。 でもたまに、…

おやすみ、おはよう まだ、だれも知らない物語

#人魚さんと創作 その②2篇の詩を寄せてくださった作者さんの過去作をご紹介 ✒︎#吐息と人魚本誌掲載もおたのしみに ❁ 。*#bunfree#文学フリマ#文学フリマ東京 pic.twitter.com/R2UScKPi8r— ✿星屑と人魚✿文学フリマ東京(ウ-04)20191124SUN (@hoshikuzu2gyo…

吐息と人魚

#人魚さんの編集作業#吐息と人魚概ね完成です(๑′ᴗ‵๑)#bunfree#文学フリマ#文学フリマ東京 pic.twitter.com/p2nWm0XiPk— ✿星屑と人魚✿文学フリマ東京(ウ-04)20191124SUN (@hoshikuzu2gyo) 2019年11月10日 【kindle ことことこっとん】 ✿✿ 参加しますෆ (๑'…

あなたを中心に楽園の植物たちは繭状の筒をつくりあげていた。

「ゆりかごみたい」 あなたを中心に楽園の植物たちは繭状の筒をつくりあげていた。 これから先何十年、何百年この場所はきっと永遠に変わらず 存在しつづけるのだろう。 そんな途方もない論理すら破綻した希望的観測が脳裏をよぎった。 ここは永遠に存在しつ…

まるで繭でもつくるように、君が僕らを苔生してゆく。

僕は自分のブランケットで君を包みこんでいた。 その内側、つながる手と手、芽生えたものは じょじょに群生となって、 這うように互いの素肌を覆っていく。 いつもなら外へ外へと向かっていく蔓性のそれとは違い、 まるで繭でもつくるように、君が僕らを苔生…

それは肉厚なベルベット様をしていて、鈍い光を内から放っていた。

〇六五 それは肉厚なベルベット様をしていて、 鈍い光を内から放っていた。 わずかな光を吸収して反射しているのかともおもったが、 いまや互いに寄り添うよう腰をおろした僕らを中心に、 その花らしいものはつぼみをつけて咲き、 光を失ってゆくとともにし…

互いの境界を曖昧にしてきたまどろみは一瞬にして失われる。

〇六四 浸食されるがままにまかせていた肉体に 刺さるような痛みが走る。 溶けあうように同調し、重なり、親密に互いの 境界を曖昧にしてきたまどろみは一瞬にして失われる。 表層を這っていた君の無意識、僕という丸裸の自意識。 脳髄の奥、そこへ直接響く…

名も知らぬ草花のようななにかが、

どこから飛ばされてきたのか、 道ばたにちょんと咲いて土へ還ってゆく 名も知らぬ草花のようななにかが、 君の腕から生えてくる。 見たこともないそれは、普段、君の左胸から 芽生えて僕の左手首へと巻きつき同化する、 蔓性植物にも似た血管のそれとはまる…

もはや植物と判別した方がただしいのではないか。

〇六三 もはや植物と判別した方がただしいのではないか。 毛細血管が変容したものとして、一応のところ 定義されている蔓状の枝葉を君は繁茂させる。 拠りどころなく、外へ外へと向かっていた成長過多は 受容体を得たことでその無数の螺旋を僕のからだへ 二…

僕らの自由とは、いったい全体、この社会のどこに存在したのか。

〇六二 僕らの自由とは、いったい全体、 この社会のどこに存在したのか。 【kindle ことことこっとん】 ✿✿ 参加しますෆ (๑'ᴗ'๑)۶✐¯:.*೨✧ ✿✿ 【文学フリマ東京】11月25日(日) @流通センター 秋の文学フリマ出店します☺︎お時間ある方ぜひに〜ෆ (๑'ᴗ'๑)۶✐¯:.…

ともだちなんていらない。

〇六一 僕らはなんて不便になってしまったんだろう。 かつての僕らにはこんな物理的な方法なんて必要なかった。 このまま君という無意識に飲み込まれて、 生まれる以前のものになりきってしまえたなら、 僕らはまたひとつに繋がることができるだろうか。 と…

光の庭

〇六〇 光の庭で子どもたちはやがて、 種子が芽生えるようにきゃらきゃらと遊びはじめる。 手をつないで腕を組んで、じゃれあうことが ひとつの意思疎通の方法であるかのように 互いの親密性を確かめ、誇示しあった。 きっと、あれこそが 僕という人間が持ち…

あなたが緑の黒髪と愛でるわたしの長い髪。

〇五九 わたしの褐色の肌色。 あなたの透きとおるような青白い肌色。 あなたが緑の黒髪と愛でるわたしの長い髪。 抜けやすく切れやすい、あなたの光沢のない白い髪。 わたしとあなたは、現代社会においてあからさまが過ぎるほど、 つややかであり、貧相であ…

うだるような夏の暑い日の記憶が、怒濤の文字の海からうねりをあげ押し寄せてくる。

〇五八 うだるような夏の暑い日の記憶が、 怒濤の文字の海からうねりをあげ押し寄せてくる。 ともすると一気に飲み込まれてしまいそうな既視感。 意識を失えば、僕のからだはすでにこちらへ 歩み寄りつつある男の腕に抱きとめられて、 それからそのさきは極…

君が僕を必要としてくれている、その優越感に安堵するのだ。

〇五七 つややかな黒い髪、それが無造作に流れる背中、 ときどきむせてびくつくのを、僕はどこかおそるおそる捕まえている。 君が僕を必要としてくれている、その優越感に安堵するのだ。 依存しているのは僕の方だ。 けれど、それを君に気づかれてはならない…

うすら青い幼体のからだは羽化直後の蝉のそれに似て、半透明の色白さで、脆くやわい。

〇五六 雌雄の区別もおぼつかない、うすら青い幼体のからだは 羽化直後の蝉のそれに似て、半透明の色白さで、脆くやわい。 みなうつむき気味に、時間の止まった海に留め置かれている。 魂の宿った片鱗は見当たらない。 半永久的に保存するには、生身の命はあ…

光と影、白と黒、モノクロの世界、それが僕の最初の記憶だった。

〇五五 そこに横たわる僕自身、繋がる無数の管と電極、 光と影、白と黒、モノクロの世界、 それが僕の最初の記憶だった。 ガラス窓の向こうを、頭まですっぽり白で 覆い隠した人々が日に何度か通り過ぎるのを、 彼らが自分とおなじものであると認識したのは…

叶わないなら跡形なく消えてくれ

まるで根拠のない淡い期待がある それを信じたくないじぶんと 期待に期待しているじぶんがいる わたしの根拠のない勘は兎角 不確かだけれども存外よくあたる しかし期待するなと謳うのも 確かにわたしのなかのわたし自身 叶わないなら跡形なく消えてくれ 【k…

怯えているのはポーズだろう

雑多な感情は僕のなかで 腐敗と発酵をくりかえす 目に見える感情は 触れればあたたかく ときに指先を濡らす 怯えているのはポーズだろう 君という自意識はそこにはない 【kindle ことことこっとん】 お題「夏休みの思い出」 斜陽・人間失格・桜桃・走れメロ…

有孔虫が見た夢を君にも見せてあげる

有孔虫が見た夢を 君にも見せてあげる 【kindle ことことこっとん】 お題「思い出の一枚」 ユメのなかノわたしのユメ アーティスト: 伊藤真澄 出版社/メーカー: ランティス 発売日: 2012/08/08 メディア: CD 購入: 2人 クリック: 10回 この商品を含むブログ …

じわりとめり込む感覚があって、それから熱い波が押しよせてくる。

〇五四 じわりとめり込む感覚があって、 それから熱い波が押しよせてくる。 君の血、君の体温、あわせた手のひらの 根元から手首の血管が同化をはじめる。 植物の種が芽をだし成長してゆく様子を 早回しで流しているような、しかし 支柱を求めさまよう蔓は生…